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神話作り

朝、窓を開けて風を触り、どのコートを羽織ろうかと思い巡らせていたら、出掛ける時間が押してしまった。三寒四温の春だ。梅が咲いている。もうすぐ桜も咲くのだろう。春先の薄水色の空が、この仄白い花々で埋め尽くされるのを、私はずっと心待ちにしている…

美登里の一輪挿し

きみに、下町の路地のことを話せたらと思っていた。妙に入り組んだ細い小道と、青い空、そこを足早に流れるむら雲と、アスファルトの上をせわしなく動き回るせっかちな住民。3月18日の良く晴れた午後、私たちはそこを散策した。道端には芸をする年老いた…

2017/02/24

‪晴れ。寒くなった。9時間労働した後は気力がなくなってしまうので、寧ろ余力で仕事をするべきだと思い、家を出る3時間前に起きて読書をする。泉鏡花『婦系図』を読みかけたが、気が散ったので、花瓶の水を取り替えに自室へ戻る。友人が「この花束、アレンジ…

2017/02/09

「お休みは、どこかへ行くの?」という先輩からの問いかけに、箱根にでも……、とふやけた感じの返事をすると、「明日は雪が降るから、気を付けて行ってらっしゃい」と、助言された。車を手配してくれた人に連絡をすると、箱根は積雪の可能性があり、運転には…

1914/08/14 ヘッセ、日記の覚え書き

「晴れ。暑い。変わり映えのしない日々だ。ここ数日「ブント」氏は必死に中立を守ろうとしているにもかかわらず、かなり親ドイツ的な印象を与える。それはフランス側の報道が芝居じみた大風呂敷を広げているからだ。私はこの十年間でフランスは再生を果たし…

思い出はあとから始まる

小さな端末を両手で握り締めて、子供がおもちゃを抱きしめるみたいにして、老若男女が旅をしていた。ポケモンGOは夢と現実を同時に、手軽に見せるという点で画期的なゲームだった。しかし、それ以上に私は彼らの視点に興味がある。「視点」と口にしたがる…

2016/06/21

約束の時間には、雨はすっかり上がり、空気は季節に見合った熱を帯びていた。私は目的地までただ横をついて歩いていただけだったけれど、道にはふつうより大きな水たまりもあれば小さな水たまりもあったので、よく目を凝らすことが大切だった。 一段目が異様…

2016/05/28

Mと待ち合わせをした。澄んだ空気をとおして、街の輪郭がキラキラと浮かび上がり、あたりは緑と軽やかさに満ちていた。彼女と会って話ができることは嬉しい。陽気に踊っている世界を二人で一緒に覗くことができるからだ。 林檎の香りを小瓶に詰めてプレゼン…

境界があいまい。

都内は地下と地上の境があいまいだ。上野駅を出て横断歩道を渡り、吹き抜けになっている建物のエスカレーターを昇ってお店に入った。夕食を済ませた後、さらにエスカレーターを昇ると上野公園に抜けることができて驚いた。ここには何度も訪れているはずなの…

涙と言えば

部屋の掃除をする。 ■ピアノ教室のプログラムを見つける。 小学5年生のころ、レースとお花がふんだんにあしらわれた淡い黄色のドレスを纏って、白い靴を履いてNazarethのbatuqueを猛スピードで弾いた。ひとつ年上のSちゃんに勝ちたくて勝ちたくてしょうが…

皮膚

悲しいことがあった。でも、泣かなかった。泣くのは卑怯な行為だと教えられていたし、私はコレットの『シェリ』のような、頬の火照りが透けた桃色の涙を流すことは永遠にできないからだ。涙を流す代わりに、食紅を買って青い色水を作り(小学生以来だ!)窓…

2016/03/30

昔から、何故か男の子とばかりケンカをする。女の子とケンカをしたことはほとんど無い。大学生のころ、例によって男の子と悪意をお互いひた隠しにした、冷戦のような言葉の応酬をした際に「思考を止めてはいけません」という言葉をもらった。それに対して私…

星を飲む

悔い改めるべきことはきっと山ほどあるので、悔恨についての話はどうみても必要だった。ヘルマン・ヘッセの『少年の日の思い出』がまぎれもなく素晴らしい作品なのは、悔恨についての話であるからだ。悔恨についての物語は、いずれは誰かが海辺で拾い上げて…

2015/12/06

夢を見せることができる人は、稀有な存在であり、よく愛される。他人に上手に目隠しをしてやること、それを実行に移す勇気を持つことは、クリアに世界を見つめることが正しいと教え込まれた私たち人間にとって非常に難しい。しかし、何もかもをその純粋な瞳…

過剰すぎる過剰

木曜の昼下がりに高い場所、具体的には21階で、血液を採取された。白衣を纏う看護師の清潔な爪先に、ひっかき傷のような愛しい形の月を重ねた。古代の人々は月の青白さを血の欠乏のせいと考えていたため、月をすっかり真似てみようというのなら一滴残らず…

やめること

先輩が仕事を辞めた。2年目の先輩で、某4大会計事務所に転職する。そういえば私がその人と仕事の話をしたことは1度もなかった。そもそもあまり記憶に残るような話をしていない。誰とも距離を縮めようとしない、徹底された個人プレーの仕事を眺めながらここ…

2015/09/25 - 2015/09/27

なんだか今日はやけに神に捨てられる日だなあと思っていると神様のうちの1人が私の目をじっと見据えて「今日は何の日だか知っている?」と訊いてきたので、初めて日にちと世間的イベントが結びついた。私は、職業がら25日のことをどうしても愛せなくなって…

2015/09/21

半年ぶりの友人たちに会った。七人で同じ授業をとり、全員そろったことが四年間で数えるほどしか無かった彼女たちは今、なし崩しに働いていた。うち二人はまだ学生をしていた。 そもそも集合場所も時間もはっきりとは決めていなかったため、各々がカンを頼り…