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皮膚

雑記

 悲しいことがあった。でも、泣かなかった。泣くのは卑怯な行為だと教えられていたし、私はコレットの『シェリ』のような、頬の火照りが透けた桃色の涙を流すことは永遠にできないからだ。涙を流す代わりに、食紅を買って青い色水を作り(小学生以来だ!)窓際の一輪挿しに注ぐ。来る日も来る日も悲しさは押し寄せてばかりなので、ミルクを飲むように、小鳥の名前を覚えるように、毎日、色水を作っては与え、作っては与えを繰り返していた。カーテンを開けると、窓からレース越しに無数の光の粒が燦めきながら散乱して、一斉に花に注がれる。そうして従順に薄青を吸い上げたトルコキキョウは、たった数日間で静脈が浮きだつようになり、私よりよっぽど人間味を帯びた顔をしていたので、なんだか気味が悪くなって、屑籠に放ってしまった。